2011年03月19日

「転職したいんやけどなあ」言葉を聞くのは、予感がしていた私は


「転職したいんやけど」彼のこの言葉を聞くのは初めてではありません。数日前から私に話があるようなそぶりを見せていたので、なんとなく察しがついていました。

社会人になってから、建設関係の会社の営業職ばかりを転々としていました。ぜんぜん違う仕事にチャレンジするということはなく、いつも同じ職種でした。

「転職ばかりして、生活は大丈夫なの?もっとしっかりしてもらわないと」と実家の母も心配しました。「別れた方がいいよ」という友人もいました。

別に、何かミスやトラブルを起こすわけではないのです。ごく真面目な性格ですし、仕事もきちんとこなしていました。今度は大丈夫、と思っても、1年ほどするとまた「転職したい」と……。



夫の「転職病」が始まると、私はやりきれない気持ちで彼に当り散らします。「ええトシして転職ばっかりして何考えてんの!みんな嫌なことがあっても我慢して働いてるでしょう。仕事ってそんなもんでしょうが!」彼は言い返すこともせず、ただ黙ってうなだれているだけ。

それでも私が今まで転職を許し、応援してきたのは、「この人は、転職を繰り返してるけど、逃げてるわけじゃない。自分の求める何かをずっと探し続けてるんだ」という気がしていたからです。

そして、彼から「職人になりたいんや」という言葉を聞いたとき、私は、なぜか安堵しました。彼はとうとう、自分が進むべき道を見出したのです。

考えてみれば、彼は職人に向いているのかもしれません。大工をしている彼の父親に似て、寡黙で誠実だし、力仕事も細かい作業もいとわないし、大きな手で器用に何でもこなしてしまう。彼は、職人にふさわしい気質を父親からしっかりと受け継いでいたのです。



「うん、私あなたは営業よりずっと職人に向いてると思うわ。転職がんばって」そう答えると、彼はとてもホッとした様子で微笑みました。

1ヶ月に渡る転職活動の末、彼は隣市の小さな建設会社に、施工管理担当者として採用されました。彼の希望通り、職人としての再スタートが決まったのです。

面接の時にマイナスになるのではと懸念していた転職歴は、逆にプラスとして評価されました。いろんな現場を知っていること。仕事の流れをトータルで理解できること。前職で現場の仕事もサポートしていたため、簡単な施工なら即戦力として使えるだけの技術が身についていたこと。真面目な仕事ぶりも買われて、彼はどんどん仕事を任されるようになりました。

職人になってから3年。今回の転職は正解だったと思っています。彼は今、本当に遣り甲斐を感じながらイキイキと働いています。営業の時のように残業や休日出勤もないので、家族で過ごす時間が増えたのもうれしいことです。彼の3年前の決意に、今では感謝しています。
















Posted by 山なしなしよ at 18:40